3章 / BCWを参考に最初の一つを決める
01 / BCWとは何か
1章では取り組む領域を選び、2章では具体的な行動を妨げる条件を見直しました。この章では、その領域の中で、最初に試す変更を選びます。
2章で見つけた条件を、どう変えればよいでしょうか。行動の分析から働きかけ方を考える枠組みが、行動変容ホイール(Behaviour Change Wheel:BCW)です。Michieらが19の既存の枠組みを検討し、2011年に発表しました。[1]

中心にはCOM-Bがあり、その周りに9種類の働きかけ、さらに外側に、それを支える7種類の政策があります。この働きかけの種類を「介入機能」と呼びます。輪の形は、実行する順番を表すものではありません。[1]
今回は、個人が試せる働きかけを考えます。知識を補うのか、技能を練習するのか、環境を変えるのか。2章で立てた仮説から、方法を探します。
変えたい条件に、方法が合っているかを確かめる。
02 / 働きかけの方向を見渡す
方法の名前に加えて、それによって何が変わるかを見ます。知識・技能を変えるのか、実行できる条件を変えるのか、評価や感情を変えるのか。その仕組みから、能力(C)・機会(O)・動機(M)とのつながりを考えます。
| 介入機能 | 何に働きかけるか |
|---|---|
| 教育 | 知識や理解を増やす。 やり方が分かれば心理的能力(C)に、行動の意味や結果を理解して評価が変われば熟慮的動機(M)に関わる。 対策例:散歩の経路や、仕事の作業手順を説明する。 |
| 説得 | 伝える内容によって、感情や行動への意欲に働きかける。 意識的な評価を変える経路と、感情的な反応を引き起こす経路があるため、熟慮的・自動的動機(M)に関わる。 対策例:運動を続けた先に楽しみたい暮らしを、言葉や写真で伝える。 |
| インセンティブ付与 | 報酬を得られると期待させる。 「得になるから取り組もう」という判断は熟慮的動機(M)に、報酬への期待から生じる欲求や衝動は自動的動機(M)に関わる。 対策例:一週間の学習目標を達成したら、楽しみにしていた映画を見ると決める。 |
| 強制(Coercion) | 罰や費用が生じると予期させる。 「不利益を避けよう」という意識的な判断は熟慮的動機(M)に、関連する場面で生じる恐れや不快感は自動的動機(M)に関わる。 対策例:運動教室の無断欠席にキャンセル料を設ける。 |
| 訓練 | 練習を通して技能を身につける。 身体を動かす技能なら身体的能力(C)に、考え方や感情・行動を調整する技能なら心理的能力(C)に関わる。 対策例:スクワットのフォームを反復練習する。難しい会話の受け答えを練習する。 |
| 制限 | ルールによって、対象の行動や競合する行動を取りにくくする。 選べる行動を変えることで、物理的・社会的機会(O)に関わる。 対策例:勉強する時間帯には、SNSアプリを開けないよう利用制限を設定する。 |
| 環境の再構成 | 物理的・社会的な状況を変える。 時間・配置・周囲の条件を変えて実行しやすくする経路は機会(O)に、行動のきっかけとなる刺激を変える経路は自動的動機(M)に関わる。 対策例:歩く靴を玄関に出しておく。仕事中はスマートフォンを別の部屋に置く。 |
| モデリング | 目指したり、まねしたりしたくなる手本を示す。 原典では、模倣を通じて行動への反応を生む働きとして、自動的動機(M)に対応する。手本を使って技能を練習する部分は、訓練として考える。 対策例:自分に近い生活条件で運動を続けている人の実践を、手本として紹介する。 |
| 実行支援(Enablement) | 他の介入機能とは異なる仕組みも使い、実行の妨げを減らす。 身体や認知の働きを補う支援は能力(C)に、実行できる条件を増やす支援は機会(O)に関わる。原典は、薬物的な介入などによって衝動へ直接働きかける経路も挙げ、自動的動機(M)にも対応づけている。 対策例:歩行を助ける補装具を使う。禁煙支援で、喫煙衝動に対処するための薬物的な支援を受ける。 |
定義は原典Table 1、COM-Bとの対応と仕組みの説明はTable 2・脚注および本文をもとにした言い換えです。対策例は働きの違いを理解するための例で、個々の対策の効果を示すものではありません。[1]
一つの対策が複数の機能を持つこともあります。例えば、手本を見て「自分もやってみたい」と感じる働きはモデリング、その動作を練習して技能を身につける働きは訓練です。名称だけで分類せず、その対策で何を変えたいかを確かめます。
円形の図で隣り合う区画が、そのまま対応するわけではありません。対応は原典Table 2を参照しています。原典の対応を見る。
「もっと説明する」以外にも、今の妨げに合う働きかけを探す。
外側の7つの政策カテゴリー
コミュニケーション・マーケティング/ガイドライン/財政的手段/規制/法制度/環境・社会計画/サービス提供。介入を可能にしたり支えたりする組織・社会の仕組みです。個人で変えられない条件がある場合にも、本人への働きかけだけで完結させません。[1]
03 / 最初に試す働きかけを選ぶ
流れに入る
ソファ横から玄関へ
荷物の置き場を変えると、ソファに座る前に外へ出やすくなるか。これを確かめます。
最初に試す方法は、次の三つを目安に選んでみてください。
- 妨げとのつながり:その変更で、今止まっている場面がどう変わりそうか。
- 実行可能性:今の生活の中で、費用や手間に無理なく試せるか。
- 確認のしやすさ:変更を試せたか、行動が変わったかを確かめられるか。
「簡単に変えられるから」「細かいところが気になるから」だけで選ばず、記録した妨げにどう働きかけるかを説明してみてください。候補がいくつかあれば、他の行動にも役立ちそうか、何を手がかりにそう考えたかも比べます。
生活の全領域を一度に変える必要はありません。選んだ領域で小さく試し、期待した変化と負担を確かめます。
最初の一つを選んだら、何が変わると予想するかも決めておく。
複数の対策が必要になることもあります。まず選んだ変更で何が起きるかを、次章の科学者マインドで確かめます。